茨城百景の碑二つ|大洗歴史漫歩(大久保 景明)

大洗町内に「茨城百景」の碑が二つ建っている。

「茨城百景」は、現大洗ゴルフクラブ理事長 友末洋治先生が、茨城県知事時代の、昭和25年に、県内百ヶ所の名所旧跡の景勝地を選定したものである。碑には達筆な友末知事の書で、各名称が刻されている。


大洗、磯浜海水浴場の碑

 この碑は大洗ゴルフ場入口近く、太平洋に面した大洗神社境内に建っている。

 大洗海岸は、多くの奇岩怪石が乱点しており、これに打ちあたる怒涛と潮風は、高く雪花を散らし、まことに雄荘にして豪快である。

 大洗の名称は文徳実録(1,100年前)に初めて出てくるが、江戸時代の学者の説によると、「大洗」と云う名は「波が大いに洗う」からとか「大荒磯」或は「鬼洗」又は悪気を払う「儺」(おにやらい)からなまったものと云われている。

 風光明眉なこの大洗は、水戸黄門を始め昔しから多くの人々がおとずれ詩歌を詠んでいる。


あら磯の岩にくだけてちる月を
 一つになして帰る浪かな (義公)

大洗磯我れ下り立てば裾のあたり

 寄せて砕くる八重の白波 (落合直文)


 大洗の海水浴の起源は遠く元禄時代の「潮湯治」にさかのぼるが、近代的な海水浴場としては明治10年代であろうか。

 明治28年刊の「大洗海水浴場誌」の序に、「大洗は東海稀有の海水浴場にして、余其の勝を耳にすること久し、然れども親しく此の地に遊び、浴場の適否を実験せしは僅かに期年のみ。地勢山水に富み、気候身に適し、交通自在にして、浴場完備し、真に塵界の別天地なり」とある。

 この時にはもう大洗宮下には、大きな旅館が6軒もあり、中には三階建の家もあったと書いてある。同誌によると当時の宿泊料は、「特別最上等」が1円50銭で「下等」が25銭であった。

 磯浜海水浴場は今年から閉鎖して、南方の大貫下の新浜に移動した。

 そもそも磯浜海水浴場の地は、もとは袖ヶ浦と称する湾曲した処で、今の大洗町役場附近は大分深い海で、この辺で鰹が釣れたと云うことである。

 ここに明治43年から漁港をつくるべく、県費10数万円を投じられたが、漂砂の堆積はなはだしく、大正5年には逐に工事中止のやむなきに至った。

旧築港の失敗が絶好の海水浴場を作った 昭和初期


磯浜海水浴場絵葉書 昭和初期


 而かしその跡は遠浅の上に、浪や風が穏かなので、安全無比の大海水浴場となった。以来60有余年県内屈指の海水浴場として浴客で賑ってきたが、この程大洗港建設のため、しめ切られたものである。

 漁港建設の失敗で出来たこの磯浜海水浴場も、新港湾建設によりその使命がここに終ったと云うべきか。明治時代の磯節


袖ヶ浦曲のあけぼの染を、きてもごらんよ磯模様


の磯群はすでにない。

 建設中の大洗港は、昭和54年に国の重要港湾の指定を受け、北関東の海の玄関口たらんと、長距離カーフェリーの寄港を前提に、農水産品及び生活関係物資等を取り扱う商港として、昭和65年完成の目標である。59年度には、カーフェリー一日一便の就航を実現させようと、関係者が懸命の努力をしている。


大貫海岸の碑

大関五郎詩碑


 大貫海岸は、白砂青松の地で、大正時代から常陸舞子として世に宣伝されて、別荘地、避暑地として有名になり、戦後は海水浴場として大いに賑わってきた。

 大洗港工事の進捗につれて、近時大貫岸下の西堤から南にかけて、見事な白砂が附き、而も遠浅という立派な浜が出現したので、今年からは、磯浜大貫両海水浴場共にこの新浜に移し、とりあえず磯浜大貫海水浴場とした。将来はこの浜も「何んとかビーチ」とでも名づけることになるのであろうか。

「茨城百景大貫海岸の碑」と同じ所に大関五郎の詩碑がある。


太陽が生れて
海はおだやかだ
千鳥の足跡を消してゆく

風に吹かれて

寂しい私だ


 大関五郎は水戸出身の詩人で、夜雨や暮鳥の影響をうけ、歌集「寂しく生きて」外多くの著がある。昭和3年「日本民謡協会」に参加し大いに活躍した(1895~1948)

 この碑は昭和47年に建てられたが、その時の建設委員長は「軍国子守唄」の作詞者として知られる、日立市出身の山口義孝氏で、揮ごうは笠間の詩人 故柳橋好雄氏の御子息 松本月詩氏である。

「茨城百景」の碑に今立って見ると、建碑の頃とは周辺も大分変った。茫々として30余年、今昔の感に堪えない。低回去り難くしばし感慨にひたった次第である。

1982秋 地図⑦


追記

大貫海岸の碑の高台に「茨城歌人」の創始者田崎秀の歌碑が建てられました。平成14年6月15日除幕の予定。

白々と海鳥浮ける潮近く日が差せばいこいの水浜(みぎわ)なすさま


著者情報もくじ


※ 原本における旧字体は、ウェブページで表示できる新字体に改変しています。


出典|大洗歴史漫歩、2002(平成14)年5月18日発行

著者・発行者|大久保 景明

印刷・製本|凸版印刷株式会社


登録者|田山 久子(ONCA)